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東京高等裁判所 昭和46年(行コ)40号 判決 1973年3月09日

控訴人 目黒税務署長

訴訟代理人 松沢智 外三名

被控訴人 横山弥技子

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上法律上の主張、証拠の提出、援用、認否は、次に附加するほかは、原判決の事実摘示の通りであるから、これを引用する(但し、原判決七枚目裏七行目に「一五日」とあるのを「五日」と訂正し、添付目録の末尾に別紙目録記載の通り附加する)。

被控訴代理人は次のように述べた。

「被控訴人は、正規の形式による納税申告手続は行わなかつたけれども、申告期限前に本人および代理人による出頭ないし明細書の提出により実質的な申告手続を行つているのであるから、本件については期限前に申告手続が完了していたものとみるべきであり、仮に申告手続がされなかつたものと解せざるを得ないとしても、被控訴人には申告しなかつたことについて正当の理由があつたのであるから、本件処分は違法である」

<証拠省略>

理由

被控訴人主張の請求の原因(一)の事実および被控訴人が、昭和四二年中にその父、弥蔵から本件不動産の贈与を受けたが、その贈与税の申告期間である昭和四三年二月一日から同年三月一五日までの間にその申告書を所轄税務署長である控訴人に提出しなかつたことは当事者間に争がない。

被控訴人は、被控訴人が期限前に申告手続を完了していたものとみるべきであると主張するけれども、納税申告は納税義務を確定させることを主なる目的とする課税標準および税額等の申告であつて、申告書の提出によつてする要式行為であり、申告書作成の基礎となる書類等が申告期限内に提出されても、それだけでは、正式の申告とはいえないから、被控訴人主張の出頭ないし明細書の提出により申告を了したものとみるのは相当でなく、被控訴人の右主張は、主張自体理由がないから、採用できない。

次に被控訴人の加算税不課の特例に関する主張について判断する。<証拠省略>により認めうる、被控訴代理人が昭和四三年三月六日弥蔵、被控訴人両名の代理人名義で控訴人に提出した不動産権利譲渡明細書には譲渡税だけでなく本件贈与税に関する意見も記載されている事実、<証拠省略>により認めうる、国税庁発行の資産税関係通達集(昭和四三年一月)には、相続税法第二一条の三(贈与税の非課税財産)関係として、財産の果実だけを生活費または教育費に充てるために財産の名義変更があつたような場合には、その名義変更の時にその利益を受ける者が当該財産を贈与によつて取得したものとして取扱うものとする(昭三四直資一〇第一五〇条)旨記載されている事実、本件贈与不動産を非課税財産と解することが困難であることは条文上ほとんど明白であることを総合すると次の事実が認められる。

被控訴代理人は昭和四三年二月二九日被控訴人を伴つて目黒税務署に出頭し、担当係官である高木優に面接して、本件贈与は相続税法第二一条の三に該当する旨の意見を開陳した。高木はこれに対し反対の意見を述べたが、被控訴代理人が納得しないので、国税局から応援にきていた上司に一応相談した上、重ねて不該当の旨を回答した。これに対して被控訴代理人がなお自説を固執して譲らないので、高木は被控訴代理人に対し、文書で控訴人あてに意見を出してもらえば、再検討してみるが、仮に本件について贈与税が非課税になつても、贈与に関する明細書を出さないと、弥蔵に対して譲渡税がかかる旨を告げた。被控訴代理人は同年三月六日控訴人に前記書面を二組提出したが(一通は返戻)、これに記載されている意見は前記面接の際の意見と変つていなかつた。高木は上司と相談したところ、課税になるから、もう一度きてもらつて、申告してもらうようにとの意見であつたので、被控訴人または被控訴代理人に来署依頼を出した。同月九日被控訴代理人が来署したので、高木はこれに対し、書面は受取つたが、普通の贈与と変らないから、申書告を出してもらいたい、譲渡した方も書面が必要だから、出すようにと告げたが、被控訴代理人は、もしも税金がかかつた場合は、争つてみたいといつて帰つた。同月一五日被控訴人の妹が譲渡の方の書面(前記返戻したもの)を持つてきたので、高木は同人に、きようが期限だから、申告してもらいたい、申告しないと加算税がかかる旨を告げ、その旨を被控訴人に伝えるように頼んだ。その後も被控訴人から申告書が提出されないので、高木は同年六月二二日ごろ電話で、被控訴人および被控訴代理人に対し、本件贈与は普通の贈与と変らないから、申告書を出すようにと勧めたが、被控訴代理人は、書面に記載した通り非課税だから、申告する必要はない旨答えた。

<証拠省略>も右認定を左右するに足らず、<証拠省略>中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定をくつがえして被控訴人主張の事実を認めるに足る証拠がないから、被控訴人のこの主張も採用することができない。

従つて、被控訴人の請求は失当であり、これを認容した原判決は相当でないから、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条に従い、主文のように判決する。

(裁判官 田嶋重徳 山崎茂 吉江清景)

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